事務局より
加藤さんは、出向をきっかけに人材派遣事業に深く関わってこられました。「派遣」の問題を切り口に日本の労働行政が直面する基本的な問題を提示されました。正社員ではない、非正規雇用が拡大している事情を説明いただき、非正規雇用のセーフティネットが整備されないままに、「派遣」の問題は解決しないという視点から問題を幅広く考察され、具体的な提案をされました。とくに、男性労働者を世帯主としたこれまでの社会システムが崩壊にしているにもかかわらずに、制度・手当が追随できていないというご指摘は、重要であると思いました。

語り手2: 加藤 尚平さん(9期)

「派遣って何だ!」


0. はじめに

・大同特殊鋼勤務後、10年前から東海圏の人材派遣の仕事(名古屋本社のピープルスタッフ。現在はテンプスタッフグループ傘下)にたずさわっていた。中部地区ではダントツのシェア(10%以上)を誇っていた。当時派遣会社は全国で5,000社、愛知県内700社。4年半在社。その間、売上は入社時年110億、退社時290億と業績拡大し、部下と派遣スタッフも増え、仕事としては面白かったが、内容に飽きてきたこともあり、知り合いの下水道管理の会社に移る。現在、その子会社の派遣会社の運営を担当している。大同特殊鋼から出向から出向の綱渡りをしてきたことになる。

・「派遣切」「派遣村」など、「派遣」で取り上げられているのは、派遣業のうち、その一部にすぎない製造業に限定されている。報道での「派遣」の捉え方に問題がある。

・「派遣」は正規雇用に対する、非正規雇用にあたる。ただし、労働には正しいも、正しくないもなく、用語としては不適切ではある。

・雇用のあり方は、今日、三層構造(正規常用雇用、非正規常用雇用、短時間労働)になっている。20年前は、全労働者の80%が正規雇用(正社員)、現在は60%。この間、短時間労働者(パート労働者)の数は変わらず、フルタイムの非正規雇用者が増えてきた。すなわち、正規雇用、フルタイムの非正規雇用、短時間の非正規雇用に現在の雇用状況が三層化している。

・本日の結論は、第6項で述べている私の提案につきるが、「派遣」の問題は労働者派遣法だけを取り上げるだけでなく、非正規雇用をどうするかという視点がないと「派遣」の問題は解決しないという点を事前にご理解いただきたい。

1.労働者派遣法について

・労働者派遣法:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律、1986年成立。

・今回の政権交代前の民主党、国民新党、社民党による議員立法による改正案では、従来の法名のうち「派遣労働者の就業条件の整備等」が「派遣労働者の保護等」に変えられたが、まだ国会審議は始っていない。

・現法で「派遣」は、「自ら雇用している労働者を第三者の指揮命令の下に就業させる」ことと定義されている。すなわち、雇用と使用が離れているのが「派遣」である。したがって、雇用していない者を派遣しても「派遣」とは言えない。

・労働者派遣法は、諸外国との経済格差のもと、産業側でのコストの削減、具体的には固定費(=人件費)を変動化させることが背景にあった。すなわち、景気が悪化しても「派遣」という間接雇用により、人員削減が簡単にできる。一般派遣(事務職)にくらべ、スキルが高く人件費も高い専門職の使用を経済情勢により自在にできる。

・労働関係の法律を作るにあたっては、ILOの加盟国として労使双方の意見聴取(労働政策審議会)と合意が必要である。派遣法について、労働者側が恐れたのは、正社員が派遣に代わるのではないかという点にあった(法成立後、実際にそのようになっていった)。そこで法の成立当初は派遣対象は専門業種、13業種、1年間に限定された。

・しかし、企業側にとっては旨味のある便利な法律であったので、規制緩和の流れもあって、改正が重ねられ、26業種に拡大、さらには2004年に自由化に至った。ここに製造業が派遣の対象業種に組み入れられることになった。

2.派遣法の変遷(2009年問題)

・2007年の労働者派遣法の改正で1年の期間制限は仕事の慣熟面から使用しにくいとの理由で3年に延ばされた。すでに製造業に派遣されている人はそれまでの1年に加え、さらに2年(2009年3月)で派遣契約が終了になり、製造業はどうなるのかとマスコミで大きく取り上げられた。

・2009年問題が注目を集めたのは、2008年中頃、朝日新聞がキャノンの工場の偽装請負を徹底的に追及し、そのためかなりの製造業が派遣に切り替え、製造業の派遣がどっと増えたという背景がある。それに景気の悪化もあって派遣切りもあって製造業の派遣労働者が職を失うという事態になった。

・現在、製造業は請負に戻っている。

・規制緩和がすすめば、期間制限もさらに延びてなくなるだろうと、派遣業者は思っていたし、行政もそのように考えていたふしがある。好景気がつづいておれば、期間制限はなくなっていたかもしれない。このような事態になったので、だれもこれ以上の自由化をすすめることはしなくなった。

・当時野党の改正法案は自民党改正案にくらべると使用者側にとって厳しい内容。自民党案はすでに労働政策審議会を通過。前者の野党(現与党)案はようやく同審議会にかける動き。ただ、使用者側の反対でおそらく審議会は通らないだろう。労働者側にも法案にあるような性急な改正をしてしまうと、昨年統計の399万人の派遣労働者のうち、70万人くらいの雇用が喪失されるのでは、と懸念するむきもある。この案は社民党案がベースにあり、連立意図もあって、民主党が歩み寄った内容である。

3.派遣法の複雑さの原因

・「派遣」は使用と雇用が分離。派遣先、派遣元、労働者から成る。派遣元と労働者のあいだは雇用契約。派遣元と派遣先は民法の原則自由の契約(売買契約)。派遣業者は、仕入れがなく売上げばかりでの高消費税納付。
・派遣先は通常の売買契約(人=商品)と捉えがちであるが、雇用契約による商品が対象となり、一般の契約とは異なる。派遣法では、労働者保護のため、契約内容が細かに規定されている。派遣先は労働基準法も熟知しなければならない。
・「派遣」はいってみれば労働者供給事業。ピンはね防止を目的とした、職業安定法(1947年)の44条に「労働者供給事業の禁止」がうたわれているが、派遣法によるものだけは許可されている。



・一般派遣は許可事業、特定派遣(正社員の派遣)は届出制。届出をしていないものが派遣事業をやると、派遣法ではなく職安法で厳しく罰せられる。

・派遣法の期間制限は、憲法は「職業選択の自由」に違反しないか、という議論がとくに労働法関係の弁護士のあいだにある。

・派遣法は難しい法律ではないが、間接雇用という面で非常にモヤモヤしており、制約条件のなかで行われる事業であり、理解が非常に複雑になっている。私自身、派遣会社に行くまでは、労働基準法の勉強などしたことがなかった。

・派遣会社は全国で3~4万社くらいあるが、モラルの低い会社が多く、一般の人に誤解を与えている。業界団体の(社)日本人材派遣協会に加盟しているのはわずか300社。
・派遣会社はピンからキリまで。口入れは簡単な商売。資本もいらない。派遣の許可を取らなくても、やろうと思えば簡単にできる。行政の目もあまり届かない。

4.派遣法成立以前からの非正規雇用の実態

・派遣法が成立以前は、たとえば専門職のコンピュータのキーパンチャーは請負であった。民と民のあいだの自由な関係。許可がいらない。

・職安は正社員の紹介。行政が無料で実施。職安の職業紹介に向かない業種、短期間の勤務、限定的な勤務は職安が逐一紹介できない。

・民営職業紹介制度が同時に発足。例えば、家政婦紹介、マネキン紹介がその対象。昭和30~40年に家政婦はいなくなり、そのような人たちは介護保険制度前のヘルパーとなった。病院やホスピスで看護師の下働きをして働いている。

・正社員などの人材紹介会社は紹介一件あたり、年収の25~30%を手数料としてとっているが、家政婦紹介の場合は紹介料として収入の10%ほど取っていた。

・雇用実態は、契約書があるようなないような状態。社会保険は本人が自腹で払わなければならなかった。大きな医療法人は多くの病院をもっている。常用雇用を避けるため、傘下の病院を2ヶ月の短期間(雇用保険に入らなくてよい)ごとに順繰りに回ってヘルパーの雇用を更新させていた。

・そのほか、派遣法以前は請負が常態であった。製造業もしかり。私の知っている例として、四日市のH社向けの部品製造会社では、1,700名の労働者がおりうち900名が請負会社の従業員。同社は契約条件で業者に結託されるのを恐れ、9社に分散して請負発注。2004年の派遣労働の製造業への解禁を前に、行政がその部品メーカーに請負の実態を確認する過程で、請負から派遣への切り替えを誘導した形跡がある。それを受けて、そのメーカーは請負会社を集め、派遣業の許可を取るようにすすめたが、請負会社は赤字になるのでまっぴら御免との回答であった。請負会社は労働者を2ヶ月の短期雇用の繰り返しで雇っており、先の大病院と同じく、社会保険、雇用保険等への出費増から派遣にすると高くつくというのが理由であった。企業の社会保険料負担は、健康保険、厚生年金合わせて12~13%、それに労災保険、雇用保険を加えて14%。

・セーフティネットに入らずに働いているというのが実態。一時的、短期的な仕事が派遣の対象であるはずが、日本ではかなり常用化している。雇用の常用の代替で派遣を使っている。このような状況のもとに、規制緩和で派遣対象事業を一気に自由化すれば、セーフティネットが一度に広がる、という隠れた狙いが行政にもあったようである。

・同じような行政指導がかつての家政婦紹介所、今の介護ヘルパー紹介所にも行われていると聞いたことがある。

5.派遣法改正よりもセーフティネットの整備

・私は、国民年金、国民健康保険よりも社会保険が本来の労働者のセーフティネットであると考える。雇用保険の実態は、ILOの2008年の特別報告で、失業している人のなかで失業給付を受けられない人の割合は、ドイツ6%、フランス20%、イギリス45%、アメリカ59%、日本77%。ILOは日本に是正勧告をしているが、問題にされていない。日本の数字にはパート、専業主婦も入っている。派遣労働者は、派遣会社と雇用契約を結んでおり、行政の許可を受けた派遣会社であるかぎり、失業給付を受けている。大きな人材派遣会社には必ず年度末、社会保険庁のチェックが入る。

・問題は派遣よりも、セーフティネットにかからない労働者がいること。



・正規雇用(正社員)と非正規雇用の賃金格差が問題になってきている。しかし、日本の労働法下では、労働者が不利になる変更(不利益条項の変更)、解雇(雇い止め)はなかなかできないという事情があり、正規雇用の賃金が下がる兆しはない。賞与を下げるという方法しかない。このように正規雇用は高止まりしており、勢い非正規雇用を増やし、人件費を削減するという方向をとらざるをえない。日本の最先端であるキャノンの大分工場で非正規雇用が50%を越えているというのが日本の実態である。もちろん非正規雇用であってもセーフティネットをしっかりかけていれば問題はない。大手のメーカーは行政指導が密であるが、中小企業となるとまだまだ問題はある。

・2008年のOECDの報告により相対的貧困率(国民一人あたりの所得中央値の半分に満たない所得層世帯の割合)をみると、加盟30カ国のうち最貧国はメキシコ18.4%、トルコ、アメリカ、日本14.9%、つづいて韓国とシンガポールが同順位。最上位はスゥエーデンとデンマークの5.2%。

・さらにおどろく数値が紹介されている。一人親世帯の相対的貧困率は日本がダントツの58.7%とある。50%を越えているのは日本だけ。おそらく母子家庭の実情が数字に出ているのであろう。これは日本の男性を世帯主とするシステム、施策がすでに崩壊しているということである。

・日本は企業で新卒を採用し、新卒を教育し多少能力がなくても加齢とともに給与を上げていく。それには奥さん、子どもの分も入っているのでしっかりと生活しなさい、というシステムで長くやってきた。それが男女雇用機会均等法による女性の職場進出、海外とのコスト格差により正社員の給与の年功序列の廃止が加わると、男性だけが家庭生活を支えるというスタイルが90年代にすでに崩壊している。このようなことがわかっている人もいれば、わかっていない人もいる。

・多くの企業で新卒女性が総合職で入ると男女で給与は同じ。私も新人教育を結構やっているのでよくわかるが、最近の新卒社員をみているとコミュニケーション能力は女性のほうが男性より圧倒的に上。サラリーマンのスキル判断はまずコミュニケーション能力。したがって、男女同じ土俵に立つと、女性のほうが早く昇給するという結果が生まれている。

・きちんと就職できなかった男性は、派遣、請負、フリーターを余儀なくされているが、これまでのシステムの崩壊の結果として、いろいろな手当てが現実に追随していないという問題がみられる。

・最近のDV(Domestic Violence)の一因も男性が意識を変革できないためかもしれない。再来年には扶養者控除も子ども手当の関係でなくなる。夫婦別姓も議論されている。家庭において男も女も自立した人間として認められており、男性が家族を養うというシステムはすでに崩壊している。それを皆がどこまで認識しているか。その結果、法整備の対応が遅れている。

・そのひとつが専業主婦の問題。先にあげたデータにおいても、日本独特のパートタイマーの存在からオブラートに包まれており、正確な数字比較がむずかしくなっている。実際は、パートタイマーをしないと暮らしていけない人がいるはず。専業主婦で主人の扶養家族になれば、第三号被保険者として国民年金も主人とともに自動的に払われることになっている。

・このような「気楽な」人たちが多いからパートタイマーも多い。現在の日本の労働者人口は6,300万人。そのうち非正規雇用が1,700万人。パートは1,000万人。このパートの人たちのなかに「気楽」でない人たちもいる。先にあげた一人親世帯の相対的貧困率58.7%の対象者もこのなかに入ってくる。セーフティネットにかかっていない人たちである。「気楽な」パートタイマーの人たちにかくれて顕在化しない人びとである。

・40年間家政婦をやりながら毎月、国民年金と国民健康保険も払っていた人が65歳からもらえる年金は、専業主婦の年金と全く同額。これは大きな格差である。

・国民健康保険が一般の会社の健康保険と違うのは、休業補償が出ないことである。勤め人は会社の保険、中小企業であれば協会健保から最長1年半の休業補償が出る。そのため、私は国民健康保険と国民年金は労働者にとってのセーフティネットでないと考えている。

6.どうしたらいいのか?

・パートであろうが、働き方がどうであろうが、働いている人すべてに厚生年金をかける。そうしないと、一生懸命に働いていながら、セーフティネットにかからない人は病気にかかると、国民健康保険も滞納、国民年金も滞納となり、行き着くところは生活保護。すべて税金による負担であり、我々の家計にも及んでくる。

・正社員にもリストラなどの雇用不安を抱えている。それ以前にセーフティネットをしっかりと整備してから賃金格差の議論をしないとまずいことになる。

・憲法25条で「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。この生存権はセーフティネットそのものであり、セーフティネットで守られていない人が大勢いるということは大変な問題である。

・今回の派遣の問題も、マスコミから、このセーフティネットのあたりから出てきてもよかったと思っている。派遣が大変だ大変だ、派遣をどうしようという問題で終わってしまっている。自民党政府がつぶれ、派遣法の改正も立ち消え。

・すべての労働者に社会保険に加入させる。企業は当然ながら、負担が増えるので反対するだろうが、法人税を少し減免すればできない話ではないだろう。これは早く手を打ってほしい。先の母子家庭のお母さんは今、大変である。パートをいくつか掛け持ちしている。企業は社会保険等の負担を避けたいから、パートしか雇わない。パートは週20時間以内とされているので、掛け持ちせざるをえない。しかし、セーフティネットにかからない。先日ラジオで、現在の高校生の3割が健康保険に入っていないと言っていた。よって、働いている人はすべからく強制的に社会保険に入れないとおかしなことになる。

・配偶者控除制度はやめたほうがよい。働く人と働かない人のあいだに差を設けたほうがよい。

・同様に、年金の第三号被保険者制度を廃止する。



・最終的には、同一労働同一賃金をするしかない。世界で法律で同一労働同一賃金を決めているのはオランダのみ。日本ではできないだろう。正社員と一緒にしなければならない。年功序列の給与体系がまだ生きている。

・市役所の住民票、印鑑証明の窓口の人の給与は2,500円/時(公務員の平均年収500万円÷年間労働時間2,000時間)。実際はやっておれない。今は窓口業務は派遣社員が多い。時間給1,000円くらい。

・このように派遣業務はあらゆるところに浸透している。公共サービスにすごく進出している。住民基本台帳への入力、窓口業務、下水処理場管理、ごみ焼却場運転。支払っているのは25~30万円/月(賞与なし)。これを自治体職員がやれば福利厚生費ふくめ700万円/年必要。税金も2・3割上がってしまうことになろう。役所からの発注額は500万円以下。それ以上の額を派遣社員には払えない。全国のごみ焼却は7・8割が派遣労働者によっているだろう。

・毎日同じ仕事をしているのに正社員と非正規雇用のあいだに格差があり、非正規雇用の人はもっと金をほしいと問題にしている。派遣で働くことが一般化するなかで、労働種別による賃金の目安はできつつあるが、同一労働同一賃金は正規雇用を中心におくかぎり実現はむずかしいだろう。

・派遣のほうが労働形態として自分に適しているから、派遣を継続したいという人が、派遣の期間制限がひっかかって継続できないという事案から、先述の憲法の「職業選択の自由」への違反ということが問題になった。日本共産党のマニフェストによれば、派遣は職業ではない、とあるが果たしてどうか。

・ヘルパーは派遣労働を好む傾向がある。派遣であれば派遣会社があいだに介在し、サービス残業や無理な労働を義理人情で押し付けられることがないからである。

・まだ働けるのに期間制限で派遣を打ち切るというのは問題である、ということは行政も気づいており、期間は3年まで延ばされてきた。この期間がいずれは無制限になるであろう、と業界あるいは行政も予想していただろうが、先の2009年問題が起きたので、規制緩和の流れはストップしている。製造業は、3年の使用後、3ヶ月のクーリング期間をおいて再使用ということは実際不可能であるから、派遣から請負にもどらざるをえない。

7.その他

・問題なのは、一般の人たちが社会保険、労働の仕組みを知らなすぎることにある。私自身、社会保険労務士のあつまりで中学校の授業でこのような内容を話してはどうかと提案したことがある。

・私自身、鉄鋼会社で機械の販売・企画・購買をやっていた。総務はさけていた。人材派遣会社に行かなければ、こうした事柄を知る機会もなかった。営業を出来る人間をというリクエストがあって人材派遣会社に出向した。部員70名ほどは1名の高齢者介護担当の人をのぞき全員女性。営業といってもクレーム処理がほとんど。派遣のことを知るために、労働基準法にはじまり、自分で勉強しなければならなかった。

・事務派遣中心の会社で介護の派遣で成功しているのはこの会社ぐらいだと思っている。年商5億円ほどになっている。

・介護の派遣をはじめて3年経った頃、名古屋市教育委員会から相談依頼があり、市の小中学校の普通学級に通う肢体不自由児(本来ならば養護学校に入るべきところ親の要望。学校側は拒否できない。)が70名いるが、親や先生の負担が大変なので、この生徒たちの介助を派遣でできないかとのこと。仕事の内容は身体介護のヘルパーと同じ。ただし、市には十分な予算がない。週全日は不可能。週3日のみ。親と子とスタッフが意気投合しなければならない。教育委員会の直接事業でもできない。不特定多数を教育して派遣するというのは派遣事業の本来の仕事なので、派遣できると回答。

・市の入札には知恵をしぼって成功。会社は1,400円/時とって、スタッフに1,000円/時。労災雇用保険を付けた。ただ、人材募集に頭をかかえた。応募者は時間給、日給ではなく月給で判断するのが普通。一人週3日の勤務では月給としてはしれている。3月16日が入札。5月1日スタートで4月準備・教育期間(肢体不自由児の扱い、車椅子教育ほか)。時間が迫っていた。ボランティア精神のある人が必要なのに、新聞の募集広告で集まるか。はたして募集広告をみるかどうか、不安であった。

・そこで名古屋商工会議所で記者発表を行った。「全国初めての民営委託」というニュースバリューがあった。名古屋で圧倒的なシェアをもつ中日新聞をターゲットにしたら、5紙全部が取り上げてくれた。中日新聞の名古屋市内版には給与も出たので、新聞記事がそのまま募集広告になった。スタッフ180人必要なところ、初日300件の電話があり、募集費用はゼロですんだ。テレビ愛知のインタビューにも出た。今でもこの事業をつづけている。

・派遣事業が行政サービスのなかにすごく浸透し、しっかりと役立っている。選挙の開票業務もやっている。これは短期に大勢の人が必要なので、派遣会社でしかできない。私が四日市でやった時は一日600人必要であった。がんがん電話がかかってくる。問題は、朝早いので、来ない人がいる。そんな時のために社員を待機させ、欠員の所に走らせる。派遣会社はこのようなことができる。

・このようなサービスは派遣でしかできないので、「派遣」は悪い、やめてしまえ、では世の中イビツになっていくのではないか、という気がしている。もちろん派遣に悪い所があれば直していかなければならない。

以 上









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