事務局より
毎日の消費税、月々の所得税、さらには相続税など、我々が逃れられない課税の網について、できるかぎりわかりやすくお話しいただきました。取立てる方と納める方、両者が知恵の限りをつくして追いかけ、逃げ回る手口を面白くお聞きしました。法にもとづく、精緻なプロフェッショナル業務の一たんのご紹介でした。
語り手3: 早川 猛さん(8期)

「税金の世界で」

1. 税理士の業界
・ 今年あった税務調査の例を紹介する。顧客の飲食店から連絡があり、税務署が突然に来ているとのこと。税理士が確定申告書を作成する場合、「税務代理権限証書」を添付する。これによって税務署が本人に質問する時に税理士は立ち会うことができる。税務調査の際には、事前の連絡をするという、暗黙の紳士協定がある。飲食店のように現金商売では、この協定はあまり適用されない。帳簿と実際の現金とに差異がないか、というのが初動調査の狙いであるからだ。申告して4ヶ月後くらいの調査が普通であるが、時たまこのような申告直後の不意の調査がある。今回の場合、店の売上等と金庫の内容に相違はなく、問題はなかった。この調査に至るまで、税務署員は客として内偵を二回重ねており、前日も店を利用している(万札の番号を控え、金庫保管のものと照合)。確定申告の事務のほか、このような税務調査への対応も税理士の大変重要な役目である。

・ 税理士の数(日本税理士会連合会会員数)は、約7万2千人。弁護士や公認会計士の数より多い。増えてきている。

・ 一方、関与件数は減少しており、顧客数も減少傾向にある。中小規模の起業の減少が原因している。将来的には、きびしい職業と思う。

・ 税理士になるには、指定の科目に合格しなければならない。試験合格(会員数の45%)、特試合格(同25%)、試験免除(同20%)の主に3つの方法がある。

・ 試験合格は必須・選択合わせて計5科目(税法3科目、会計2科目)の国家試験に合格。受験期間の制限はない。特試(特例試験)合格とは、税務署に23年間在職した人であれば必須の税法3科目は免除、会計2科目は研修認定によって代えられるといった、関連職従事の公務員を対象にした選定方法で、ほとんどの関係公務員は合格する。試験免除とは、大学院修士課程修了者で会計か税法のいずれかの学位取得者に対するものである。以前は、会計と税法の両方の学位取得者は全科目免除であったが、ハードルが低いという批判から税法と会計それぞれ1科目は国家試験に合格することが条件になった。これは税理士事務所を世襲させる場合に、子弟がよく利用する方法である。

・ 私は、試験合格によって30歳の時に資格を取得した。勤務しながら毎年1科目、6~7年を要した。

・ 最近は、税理士の懲戒処分が増加の傾向にある。ひと頃の場合の2倍。国税庁のホームページには常時、懲戒処分を受けた税理士の氏名、住所が掲示されている。最大3年間の業務禁止処分。処分に至った非違行為は記載されていない。現在、30名くらい掲示されている。これは税理士の関与件数が減少しており、税理士が顧客を逃がさないように無理(脱法行為)をしている結果かもしれない。

・ 懲戒処分に該当するのは、税理士が脱税に積極的に関与した場合(脱税指南)。顧客が税理士の知らない(見抜けない)うちに勝手に税務処理をしている場合もある。

・ 税理士の使命は、①納税義務者の信頼にこたえること、②納税義務の適正な実現、の2点(税理士法第1条)につきる。この条項が税理士処分の根拠となる。顧客の要望と国の定め、という相反するものを満足させなければならない。顧客が法外なことを言いだして、税理士のほうから顧問契約を破棄することもある。一たん懲戒処分を受けると、その顧客だけでなく、他の顧客の税務サービスも一度に失うことになる。




2. 消費税をめぐる税法改正2例

(事業者側での消費税納付の仕組み)
・ 事業者納付消費税額
消費税は事業者を通じて国に納めるもの。
(課税期間中の課税売上に係る消費税額) - (課税期間中の課税仕入等に係る消費税額) = 納付消費税額
⇒納付消費税額がマイナスになれば、消費税額は還付される。(課税売上がある場合) 

・ 課税事業者の判定
事業年度初年 基準期間
事業年度2年目
事業年度3年目 課税事業者の判定(2年前の課税売上で判定)

・ 国税当局は従来、所得税と法人税への脱税事案を重視していたが、この5・6年は消費税に関する事案に注目している。つまり、事業者側に消費税相当額が残されている(脱税)という認識をもっている。

(自動販売機を利用した消費税還付手法)
・ マンションやアパートの住宅家賃は、社会保険診療報酬や義務教育学校の教科書と同様、消費税が非課税。よって、賃貸収入だけでは、課税売上は0。ただし、建設時には建築費用とその5%の消費税を建築業者に支払う必要がある。この消費税を還付してもらうことを考え出した税理士が現われた。

・ 自動販売機をマンション等の建築予定地にあらかじめ設置して消費税の還付を受けようとする手口が12~13年ほど前に編み出された。

・ 自動販売機収入は課税売上なので、課税事業者選択届けを提出し初年度から課税事業者となる。初年度内に建築、次年度に入居開始を設定し、納付消費税額がマイナスになるようにすれば、建築に要した消費税のほぼ全額を還付してもらうことができる。

・ この手法は当時は合法であったが、平成22年に法改正がされ、還付を受けた消費税のほとんどを納付しなければならなくなり、この手法のメリットはなくなった。

・ 法改正されるまで、この種の消費税の還付金が30億円/年あったという。

(免税事業者の利用)
・ 人件費(給与)には消費税はかからない。人材派遣業の経費(仕入)は、派遣する人材への給与であり、消費税はかからない。一方、収入(売上)は、派遣料収入で人材派遣サービスの対価である。したがって、人材派遣業は一般の事業者に比べて、納付する消費税が多くなる傾向にある。そこで、頭をひねった人材派遣業者が現われた。
・ 派遣する人材を自身の会社で雇用せずに別会社からの派遣、すなわち外注とする。外注費は消費税の対象となり、仕入に係る消費税が増加し、納付する消費税を抑制することができる。
・ さらに、平成18年の会社法の施行によって、最低資本金規制がなくなり、株式会社の設立が容易になった。資本金が1,000万円未満の会社は、基準期間がない課税期間は納税義務が免除される。そこで、先の別会社を免税期間が過ぎればつぶし、新たな別会社をつくり人材をそこから派遣する。派遣人材は2年毎にこれらの別会社を転籍することになる。
・ この手口を税理士が指南したと国税当局はみているふしがある。
・ 当局は査察を動員して、「実質課税の原則」(実態から逃れた脱税行為への課税)の徹底によりこの手法を封じ込めてきた。今年になって、三重県でもすでに2件査察案件となっている。この消費税逃れの手口も平成23年6月の法改正により利用できなくなった。
・ 行政処分としての追徴課税のみならず、国税局の査察は国税犯則取締法による検察庁への告発が視野に入っており、責任者の刑事処罰に至る。



3. 相続税

・ 昨年末の税制大綱にそって、平成23年1月に税法改正案が国会に提出されたが、震災の影響で審議はストップしている。ただし、既述の免税事業者関連のような緊急対応が必要なものは分離審議され6月に成立をみている。

・ 法改正のねらいは、所得税、法人税のほか、相続税課税の強化(基礎控除額を4割削減)と贈与税改正による次世代への資産の移転促進にある。

・ 震災復興財源は所得税と法人税の増加を主としており、相続税は考慮されていない。震災復興財源の関連法案を通してから税法改正による相続税強化が成立するとみている。よって、税法改正法案は廃案にならず、年度末には法案が成立されると思う。

・ 相続税は、バブル時代は100人の被相続人(死亡者)のうち8人が相続税対象であった。現在は地価が全国レベルで昭和58年時の価額に下がってきており、100人に対し3~4人という低さである。これが財務省が相続税を増税したい背景である。

・ 税務調査でよくあるトラブル:
  • 被相続人の遺産の内容を相続人が知らないことが多い。被相続人の遺産なのか、家族の財産なのか。
  • 顧客に相続が発生すると、まず残高証明を拝見し調べを始める(生前の収入と遺産の検討)。
  • 株が残された場合、被相続人名義の株のほか、相続人名義の株も調べる。被相続人が相続人名義で株を運用していた(管理運用)のではないかと疑う。一方、相続人は自身の名義株について、それは相続財産ではなく、自身の財産である、被相続人からもらったと主張するのが通常。しかしながら、株取引の日付はどうか(被相続人以外にも相続人の名義で同じ株を同日取引すると管理運用の疑い)、その相続人家族に株の知識があるか、取引の証券会社が相続人と面識があるか、株の財源は何か(家族の預金通帳の動き)、株銘柄の知識や購入の動機まで調査されることがある。相続人が株の運用を被相続人に任せていた(委託)と主張しても株の原資が被相続人であれば、その主張は認められず相続財産とみなされることが多い。

・ 税の不正行為の時効は7年。我々としては、このルールを援用した主張をすることが多い。相続人が7年以上前の「贈与」であると主張しても、当局はあらゆる方面から「贈与」でなく、相続財産であると切り崩しにかかる。贈与税は相続税の補完税であるという見方をしている。そのため、贈与税の申告の有無がポイントとなる。

・ 相続税調査は、土地よりも金融資産に重点がおかれる。

・ 鳩山由紀夫は指摘を受け、7年分の贈与税を払ったが、自主申告したから課税期間は5年分でよかった。2年分が還付加算金(利息)を付けて還付された。その月は税収がマイナスとなる前代未聞の事態となった。

・ 延滞税は2ヶ月間が年4.3%、それ以降は年14.6%。銀行利率よりも高い。すなわち、修正申告などで払えない税金は、銀行から借りて払ったほうが得である。




・ 相続財産を減らすために、非課税贈与110万円/年に加え、配偶者(婚姻20年以上)に対し居住用不財産2,000万円は無税という贈与税の特例を使って財産を分ける手法がよく使われる。

・ 相続人を増やすために、養子(孫も可)をつくる場合がある。ただし、実子がいる場合は養子は一人かぎり。

・ 長男の嫁は相続権がないが、世話になったとかで相続人にしたい場合、養子縁組する場合がある。養子と実子は相続において同一条件。ただし、兄弟間でもめごとも。

・ 土地にアパート、賃貸マンションを建てる(貸家建付地)と土地の評価は確実に下がる(大阪、名古屋で15%減)。相続財産価額が下がってよいように思えるが、建物補修、空室対策など、相続後のアパート経営がお荷物になる。駐車場(ただし、屋根付き)などで安くする工夫をしたほうがよい。

・ 非課税贈与(上限110万円/年)を連続させる(連年贈与)場合、贈与を裏付ける契約書が必要。同額を当初から続けると、分割贈与と認定されるおそれがある。贈与額は変動させたほうがよい。120万円贈与しても贈与税は1万円(最低税率の10%)。            

最後に、税務相談は税理士をご利用ください。










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