事務局より
我々の生活に欠かせない電気の基本について図版を使いわかりやすくお話しいただきました。また、発電と送電の技術的な側面を紹介していただくとともに、原子力発電の実情も取り上げていただきました。最後の質疑では、聞き手を交え日本に望ましい発電形態にまで話が及びました。当日のパワーポイント簡略版(記録CDに収録)もあわせてご覧ください。
瀧沢 友啓さん(阪大 54期 工学部)


「コンセントの裏に広がる電気の世界」


自己紹介
・ 本来は電気材料を専門としているが、本日は電気の一般的なお話をしたい。
・ 平成元年、京都の向日市に生まれ、3歳の時に能登川町(現・東近江市)に引っ越した。膳所高校まで通学は片道1時間(約40km)。阪大までは2時間(約100km)。今は、阪大大学院で忙しくしている。
・ 電気に興味をもったきっかけは、親が自作用に持っていた半田鏝や部品。これらを使ってインターネットで情報を得ながら色んなものを作っていた。
・ 高校に毎日、電車通学をしているうちに電車の仕組み・構造に興味をもつようになった。
・ 高校時代は生徒会活動をやっており外に出る機会が少なかった。大学では外に出たいと思っていたところ、たまたまワンダーフォーゲル部に勧誘され入ってしまった。
・ 入部したとたん錬成合宿ばかりでうんざり。一回生の夏合宿で少し夏山の面白さがわかり、二回生の夏合宿は快晴続き。それ以来、のめり込むことになった。
C:\Users\Makoto\Desktop\WVOB会\雁鳴きフォーラム\26回写真\DSCF3624.jpg

電気の基本
・ 院生として学部の電気専攻の学生の面倒をみる機会があるが、彼らですら電気への興味が薄い。世間一般ならなおさら関心が低いのではないかと思う。また、福島の原発事故後のマスコミ記事には専門家の立場からすると珍奇なものが目立った。そんなことから本日のテーマを選んだ。
・ 今日は、「電気が家庭にとどくまではどうなっているのか」「停電、とくに制御不能な大停電はどうしておきるのか」といったあたりに的を絞ってお話する。
・ 「電気」とは一体何者か?簡単にいえば、マイナスの粒子が動いている、エネルギーの一種。それではどのくらいのスピードで動いているかというと、一斉に動き出す場合は、光並みの速さであるが、粒子の単位ではわずか毎秒数cmの速さ。
・ 電気には、電圧と電流がある。電圧は水道のタンクから蛇口までの落差と考えればよい。電流は水道の水量にあたる。
・ 電気は行ったら必ず帰ってくる。出て行った分は必ず入ってくる必要がある。安定させる必要がある。そのために発電所と消費者の間に行きと帰りの二本の線が必要となる。家庭のコンセントも二本の線である。
・ 雷はいったん行った(離れた)電気が帰ってくる状態。発電所と消費者の間のように電気が金属を瞬時に移動するのではなく、雷は溜まった電気が一気に移動する。少し事情が異なる。
・ 電気が流れる法則(オームの法則)。すなわち、電流=電圧÷抵抗。電流は障害物(抵抗)競争を走っているようなものである。電力=電流x電圧。電気エネルギーは、たとえていえば、上のため池から下のため池に移動した水量。
・ 時間の要素は、電流のなかに入っている。(会場からの質疑への回答)
・ 作ったエネルギー(電気)は運ばなければならない。効率よく運ぶ必要がある。
・ 電気を効率よく運ぶためには、送電線で消費される電力を少なくする。そこで、電流をできるだけ小さくして電圧を高くする。そのためには、直流よりも交流のほうがいいと一般的にいわれている。
・ 直流は時間が経ってもいつも電圧が同じ。交流は時間とともに電圧が変化する。交流は電圧の上げ下げが容易である。
・ 日本の電圧は100V、関西での周波数は60ヘルツ。これらを工学部の電気専攻の2年生にアンケートを取ると、自信をもって答えられたのは6割程度しかいなかった。
・ 送電線は2本でなく3本が単位となっている。それはなぜか?
C:\Users\tomo\Desktop\powerline_ph.jpg

・ 3系統の電気を送電する場合、帰りの送電線1本を共有できる。実際は、行きの3本の位相をずらすことにより、帰りの送電線は電圧が零になるので送電線は3本セットで送られている(三相交流)。
・ 高圧送電線は危ないという言説がまかり通っている(電磁波の発生、ガンの発症)。実際の電磁波は微小で身体に害を与える規模ではない。町の中を走っている送電線のほうが危険度は高いが、それでも電磁波は極小。紫外線のほうを心配した方がよい。
・ 高圧送電線を地下に入れると電磁波の影響は1/10に減少する。地下埋設はコストがかかる。西洋諸国では景観への配慮から地下送電線が多い。地下送電は停電などの事故も少ない。
C:\Users\Makoto\Desktop\WVOB会\雁鳴きフォーラム\26回写真\DSCF3626.jpg

電気を生み出す仕組み(発 電)
・ 震災後は90%が火力発電。原子力発電は0%。

C:\Users\tomo\Desktop\20130708-00010004-wordleaf-1.jpg 

・ 火力発電、なかでも石油による火力発電は非常に効率が悪い。石炭火力発電と天然ガス(LNG)火力発電の発電効率はそれぞれ50%。石油火力発電は35%。石油火力発電は新設が禁止されており、原子力発電が稼働しない現在、老朽施設を引っ張り出して使用している。いつこわれてもおかしくない。
・ これら火力発電3種類と水力発電で日本の発電は何とかもっている状況である。
・ 水力発電は実は、一番使いやすい。化石燃料が不要であるから燃料調達事情に左右されない。発電機は回転数もそれほど高くなく頑丈である。起動も数分ででき、周波数の変動にも強い。したがって、水力発電は非常時に頼りになる電源である。
・ 現在日本の主力電源である火力発電は起動に3~4時間かかる(高速タービンの介在)。
・ 天然ガス発電の発電効率は58.6%で実用されているものがある。一次燃焼によるガスタービンに加え排気ガスにより蒸気タービンを回転させる二段階の仕組みになっているから発電効率が非常によい。
・ 火力発電はタービンを介しているので周波数変動に弱い。
D:\大阪大学ワンダーフォーゲル部\平成26年度\雁鳴き\名称未設定-2.bmp

D:\大阪大学ワンダーフォーゲル部\平成26年度\雁鳴き\名称未設定-4.png


・ 原子力発電は、火力発電の燃料を核分裂しやすいウラン等の放射性元素に置換したものの。発電効率は30%。
・ 原子力発電は使用燃料が特殊であるから起動に5日、停止に1か月かかる。核分裂を発生させ、それを抑えるのにこれだけの時間がかかる。扱いづらい発電方式。
・ 原子力発電には2種類:沸騰水型、加圧水型。沸騰水型は加圧水型に比べ、構造が単純、旧式に属する。事故が起きると汚染水の範囲は広くなる。一方、加圧水型は一次冷却水(燃料棒に直接触れて熱を取り出す)を圧力釜のように高い圧力をかけて高温(300℃程度)の熱水を作る。構造が複雑でメンテナンスが大変。
・ 原子力発電は配管被覆が温度変化に弱いこと、いったん停止すれば起動に時間がかかることから常に全力で運転させなければならない。そのため、原子力発電を常時全力で運転し、不足分を火力発電と水力発電で補うというのがこれまでの日本の発電体制であった。現在は、原子膂力発電の停止により変更を余儀なくされている。
・ 昼間の電力不足に備える揚水発電がある。揚水発電は、原子力発電をフル出力させて電力過剰になっても困るので発電抑制分を補い調整する役割もある。貯水池を高低差のある2カ所に設け、夜間電力(通常余っている)を利用して上部の貯水池に揚水し、電力の不足する昼間に落差を利用して発電する。どの電力会社も揚水発電を数カ所もっている。
・ 揚水発電は巨大な蓄電池ともいえる。蓄電池としての効率は70%(揚水に電力を消費するので30%減)であるが、昼間電力の需要変動に対応しやすい。東日本大震災直後3日間ほどは揚水発電の余力があったので計画停電が起こらなかった。
・ 最近もてはやされている太陽光発電は電力会社に嫌われている。太陽光発電は離島や山中など、インフラのない所では確かに最も安くてすむ。すでに電気インフラのある所で電力系統に接続するとなると問題が多い。日照と天気の変化により、太陽光発電の出力が全く安定していない。変動不足分を何らかの方法で電力会社が吸収しなければならない。太陽光発電が増えてくるとさらに変動が大きくなる。現在のメガソーラーでは蓄電池の設置が義務づけられていない。
・ ヨーロッパは大陸のなかで電力系統がつながっており、電力の融通ができるので太陽光発電の出力変動が大きな問題になっていない。日本は外国と電力系統をつないでいないので変動に弱い。さらに日本は周波数が富士川を境に50Hzと60Hzに二分されている。周波数変換も可能であるが、現在は原子力発電2基分程度の変換しかできない。安定供給には不十分な数である。

電気を送る仕組み(送 電)
・ 発電所から変電所で繰り返し電圧を下げて送電する。住宅街を走っている送電線は一般に6600V。これを電柱などの変圧器で100Vに落として各家庭に配電している。
・ 厳密にいうと、単相三線(+100V、-100V、アース線)で配電されており、±100Vの2線を使って200Vの受電ができる。
・ 200Vのほうが同一電流であれば高い電力を取れるので有利であるが、一般の家庭配線は最大1.5kWを限度に設計されているので、エアコンなど200Vで利用したい場合には専用の配線が必要となる。200Vの機器は値段が高く、配線工事も新たに必要となるので、電気屋は200V機器を薦めたがる。
・ 契約方式の違いにより関西電力よりも東京電力のほうが200V機器の導入は高くなりがちである。
・ 山里の田畑によくあるイノシシ除けの電線の電圧は50V程度。人間が触っても驚くが電流が低いので実害はない。
・ 停電の原因は、①漏電、②送電線の切断、③供給能力不足。
・ ③の供給不足は30年に一度起こるかどうかの頻度。②はたまに工事ミスで起きたりする。①の漏電による停電が圧倒的に多い。漏電(電気が本来定められた場所以外を流れる現象。基本的に、電気は地面に逃げる〈地絡〉。)を検知するとブレーカーが自動的に落ちて停電する。
・ タコ糸などの障害物が引っかかったり、断線、落雷などの時に漏電が起きる。
・ 停電の復旧の段取り: (1)トラブル発生すると一斉に停電、(2)少しずつタイミング(数秒間)をずらしながら自動的に停電を解消し、問題区間への電源が入った瞬間に再度一斉に停電、(3)正常区間まで停電を解消、(4)特定された問題区間(箇所)の修復
・ 落雷による停電の仕組み: 最上部に送電に関わりのない架空地線(雷を地面に誘導する)が張られているが、必ずしもここに落雷するとは限らない。送電線に直接落雷した場合、アークホーンを経て鉄塔を伝って地上に流れる。これを変電所のセンサーが漏電と判断してブレーカーが働き停電が起きる。






  







比良山にて撮影

・ アークホーンによって高圧電気(落雷)を自動的に地面に通電(元に戻れない)させる。これがなければ、落雷により変電所や一般の家電製品があちらこちらでこわされることになる。こわされるよりも停電させたほうがましであるという考えが取られている。
・ 送電線に落雷があるとその前後の発電所(変電所)と変電所のスイッチが一瞬(0.01秒ほど)切れる(瞬時停電。瞬停)。送電線が切れていなければ自動復旧する。送電線への落雷をいち早く検知するために送電線の随所に電波塔を建てて高速通信網を整備している。
・ ②送電線の切断による停電はめったに起こらない。3本あるうちの1本が切れても停電しない。数年前に、江戸川でクレーン船が2本を同時に切る事故があり大規模な停電事故があった。
・ ③供給能力不足による停電は、電気は水道やガスと異なり貯めておくことができないという特性による。電圧が一定であるためには、水道にたとえるならば、蛇口をひねった時に常に新しい勢いで水が出てくる状態にする必要がある。消費に合わせてポンプで送り出す水量を調節する(同時同量の原則)。電気も供給量と消費量が常に同じである必要がある。
・ 電力供給量が不足すると、電圧低下とともに周波数低下を招く。火力発電の場合、蒸気タービンに負荷がかかり許容範囲を超えると緊急停止する。1カ所で停止すると残りの発電所で補完する必要があり、それらがぎりぎりのところで稼働発電している場合、連鎖的に発電が停止され、制御不能な大規模停電が発生する。これがいったん発生すると復旧が大変である。電力会社はこのような大規模停電が発生しないように神経をとがらせている。そのためには計画停電も辞さない。3年前の東京電力の計画停電の記録を見てみると、計画停電を実施していなかったら東京電力管内は全て停電していただろう。
C:\Users\Makoto\Desktop\WVOB会\雁鳴きフォーラム\26回写真\DSCF3640.jpg

まとめ
今回は、
・電気が家庭に届くまでどうなっているか
・停電、特に「制御不能な大停電」
についてお話しさせて頂いた
電気の基本
・電気はエネルギーの一種
・電気配線はループ状に作る必要がある
・効率良く電気を送るため交流で3本の線を使用する
電気を作る仕組み
震災後は90%が火力発電
水力発電:起動が速いため非常時に頼りになる電源
火力発電:主に天然ガスと石炭を使用して大きな羽根を回すことで発電
周波数変化に弱い
原子力発電:放射性元素を燃料にした火力発電で2種類ある
常にフル出力で運転
揚水発電:ため池の間で水を移動させる巨大蓄電池
太陽光発電:コスト的に今後普及していくが、変動が大きいため数が増えた場合は蓄電池が必要
電気を送る仕組み
・繰り返し電圧を変えて(変電して)送電する
・停電の原因の大半は漏電
・送電線の漏電が起きると地域一帯が停電
・停電した後問題ない場合は数分で自動的に復旧
・送電線に落雷があるとアークホーンが導通して漏電状態にし、設備を保護する
・落雷から回復させる時に一瞬停電する
・電気は供給量と消費量が常に同じである必要がある(同時同量の原則)
・供給量が不足すると火力発電の停止を引き金に大規模停電が発生する

質 疑
Q.火力発電、水力発電、原子力発電とあるが、これからの日本にふさわしい発電形態は何か?
A.原子力発電はかなりの金をかけてすでに造ってしまっているので、減価償却するまでは動かしたほうがよいだろう。
Q.原子力発電は使用済み核燃料の処理の問題がある。
A.核燃料サイクルは実際無理である。計画が狂うから「できない」と言おうとしないのだろう。
Q.日本の経済再生にむけて最適な発電形態構成は何だろうか?
A.将来的には火力発電、石炭による火力発電だろう。
Q.中国は石炭火力発電をどんどん増やしている。地球温暖化への心配がある。
A.今の石炭火力発電は以前に比べ空気汚染の面でかなり改善されている。石油火力発電を廃止し、石炭火力発電に切り替えたほうが温暖化対策にはなる。
Q.それに太陽光発電、風力発電(日本には適さないらしいが)、潮力発電が加味されるのであろうか。
A.自然エネルギーによる発電は安定性に問題がある。安定性を確保するために、いずれにしろ火力発電を予備に設置しておかなければならない。
Q.原子力発電は危ない危ないといわれるが、中国では原子力発電をどんどん造っている。
A.中国の原子力発電は二酸化炭素対策よりも経常収支の改善がねらいであろう。
Q.インドネシアなどは原子力発電への今後の依存を明言している。
A.原子力発電は資源のない国にとっては本来有利であるが、そのほかの問題が多すぎる。
Q.中国を含め後進国では原子力発電の運転に慣れていない。何か事が起こった場合には心配である。
Q.電気に代わるエネルギー源はないのか?
A.何でもかんでも電気でやろうとするのは間違いである。電気は熱、動力、光など何でも変換できる便利なものである。このうち、電気ストーブや炬燵など、電気で熱を発生させるのは、IHとエアコンは別にして無駄の極みである。火力発電所の効率は高いものでせいぜい50%。残りの50%は捨てている。これらの熱を手元に置いて活用したほうがよい。IHについては、ガス器具の熱効率が40~50%であることを考えると電気の有効利用に適っている。エアコンは外気のエネルギーも集めているから投入した電力以上の熱が取れる。電気ストーブや電気炬燵は電熱線であるから無駄が多すぎる。照明については、LEDは蛍光灯とあまり変わらないが少し効率がよい。LEDは蛍光灯の交換コストを考えると有利である。


C:\Users\Makoto\Desktop\WVOB会\雁鳴きフォーラム\26回写真\DSCF3641rr.bmp








inserted by FC2 system