事務局より
海外出張・赴任の機会を有効に活用し、自身の趣味をより深く実証的なものにされてきたことに一同驚きの連続。画像を交えた豊富な情報をもとに、ロシアの戦車の過去と現在、そして世界情勢までも垣間見るというユニークなお話を提供いただきました。好奇心と探求心が人間のバイタリティの源の一つであることを実感する圧倒的な内容でした。
下野 俊朗さん(18期 インド・パキスタン語科)

「ロシア戦車の魅力」








1.プロフィール紹介




・学生のかたわら趣味で大阪シナリオ学校漫才台本科も卒業し、アルバイトで漫才の台本を書いていた。新野新先生に認めてもらい、浮世亭ジョージ・ケンジ向けの脚本「お笑い北方領土」でラジオ大阪の賞を取った。これがロシアとの付き合いの始まりか?
・NECではずっと海外営業担当。最初はアジアに10数年(ニューデリーとジャカルタ駐在)、そのあとロシア、中近東、アフリカに10何年(モスクワに駐在)。2011年に帰国し、新規事業開発に移った後、この3月に58歳で退社した。
・今は、アフリカ向けのエコビジネスをやろうとしている。HHOガス発生キットで、水素を発生させ、これからは水素が世の中を救うと嫁さんに言ったら、「世の中より先に家計を救え」と言われた。あと半年くらいでこの仕事を立ち上げたいと思っている。
・今後やりたいことは、四国お遍路巡り(去年の熊野古道はよかった)、キリマンジャロ登頂(ケニアからタンザニアに飛んだ時の眼下の山容がすばらしい)、マラソンで4時間を切ること。

2.ロシア出張時・駐在時の3つの趣味



・ロシアを99年から担当したが、ロシアらしい趣味を持とうと、まずバレー鑑賞を趣味にした。50~60回は観た。私のお気に入りは『バヤデルカ』、特に第三幕の影の王国。坂の上から32人のバレレーナがアラベスクして降りてくる場面。『ドンキホーテ』のキトリ役をアナニアシビリがやった時は最前列ど真ん中で観ることができた。当時は数千円で見ることができたが、今は十倍以上する。ストーリー的には、『ノートルダムのせむし男』(日本では表現コード上『ノートルダムの鐘』)が面白い。
・二番目の趣味としたのが、クロスカントリースキー。土日の休みによくやった。クラッシク走法はできるが、スケーティングがうまくいかない。エッジを立てるのがむずかしい。
・バレー鑑賞はお金がかかるので、趣味が戦車へと移った。40~50回は戦車/戦争博物館を訪れた。合わせて戦車研究、戦車グッズ収集をやった。

3.訪問したロシアの戦争博物館


・モスクワ中央軍事博物館は中心街にあり行きやすい。
・50輌ほどの展示戦車のガイドブック(50~60ページ)を作った。NECのモスクワ出張者は、これを持って博物館に行くのがおきまりのコースであった。



・クビンカ戦車博物館はイギリスのボービントンと並ぶ世界最大級の戦車博物館。
・T-34 戦車歴史博物館は、世界唯一の単一種の戦車博物館。



・サンクトペテルブルグにはNECの工場があり、サンクトペテルブルグ砲兵博物館には、ネバ川ほとりのジョギング帰りにふらりとよく立ち寄った。



・ベラルーシはドイツ軍のモスクワ攻撃の途上にあり犠牲者が多かった。



・スターリングラードは、ドイツがカフカサスの石油資源をねらい攻防が激しかった。
・ドンスコイ修道院の展示からわかるように、修道院も戦車製造に協力した。





・モニノ空軍軍事博物館の外国人の入館は事前登録が必要。勝手に入館し撮影していたところ不審者と間違えられたが、運よく中国からのツアー客が入館しており、その一行であろうということで事なきを得た。



・ロシア武器輸出展示会では最新の戦車を見ることができる。これに合わせて出張日程を組んでいた。



・赤の広場の軍事パレードが終わり、一連の車両がツベルスカヤ通りを引き上げるところを待ち受けて撮影。間近で見られる。

4.私の撮ったロシア戦車写真ベスト5



・ロシア戦車マニアとしては、少しの違いで型式を判明する知識が必要。似た戦車の履帯を同時に撮影できた写真は勉強上、貴重。



・背景のアパートとの対比が気に入っている。



・スターリン戦車の砲は43口径。内径122mmの43倍の砲長、すなわち5m以上の長さの砲を備える。紅葉を背景にその砲先から撮ることができた。



・ロシア人は教会で結婚式をあげると有名な場所で記念撮影をする。例えば、モスクワ大学の丘、ビクトリー・パーク。こんな場所を選んだカップルもいたのでショット!



・化粧をほどこした戦車の写真は珍しい。

5.大祖国戦争(ソ連の第二次世界大戦)



・訪ねた博物館はドイツの3つの軍集団の攻撃進路に点在する。



・ソ連は、軍人1,450万人、民間人700万人が死亡。ドイツ、日本に比べても桁違いに多い。世界をドイツから救ったのはソ連であるという自負もうなずける。



・モスクワ攻防戦は、250万人が亡くなり、人類史上最大の戦闘であった。ソ連が勝利したが、ソ連軍の度々の戦略・作戦ミスやドイツ軍の息切れによってもたらされた勝利という面があり、ソ連も実態をあまり公表していない。
6.戦車とは



・狭義の意味では、旋回砲塔、履帯、装甲があるのが戦車。



・本日は、広義の意味で戦車を捉え、色々な戦車についてお話しします。


7.ソ連の戦車とは



・ソ連邦は、戦車によってソ連陣営を拡大し、戦車のコストで崩壊したとも言える。

8.ロシアの代表戦車



・T-34 が登場するまで戦車技術はイギリスとアメリカがリードしていた。転輪はアメリカ人のクリスティが開発した大転輪とサスペンションの技術を採用。アメリカ軍は採用せず、ソ連が技術を購入。その後、大転輪はロシア戦車の伝統となる。



・第二次大戦開始当時は小さなT-26軽戦車がソ連軍の主力であったが、戦争末期にはスターリン戦車(IS-3)を開発し、4年間で格段の進歩を遂げたソ連の戦車技術に西側諸国は驚愕し、大戦終了直後から西側はソ連を脅威に感じた。



・T-54/55は世界で最も多く造られた戦車。敵弾を弾きやすい丸い砲塔。砲塔と車体に隙間がなく敵弾が入りにくい。車高が低く被弾しにくい反面、居住性は悪い。ソ連の戦車隊員は身長160~165cm以下でないと動きにくいとされる。



・T-72はイラク軍が持つ。湾岸戦争で米軍のエイブラハム戦車にこてんぱんにやられる(2km先から一発で被弾)。商品価値が下がり新たにT-90を造った。
・イラク軍のT-72は輸出用にスペックダウンしたもので本来の装甲でなかった。
・T-80はガスタービン駆動。高価で大量生産不向きという事情からT-90 が派生。
・20年前に登場したT-90の後継機種を開発する予算もないのでT-90の装甲を改良・強化(爆発反応装甲)して現役続行。

9.ロシアの戦闘車輌



・戦車は製造に手間と時間がかかる。とくに砲塔は鋳物。従い、大戦中、戦車の砲塔をやめ砲を固定化する自走砲を製造し、戦闘車輌の数を増やした。



・大戦後、長射程の自走砲が開発される。2Sシリーズ。
・2S4の迫撃砲は現在世界一の砲径(240mm)を誇る。
・自走砲には花の名前が愛称となっている。



・ロケットを車輌に載せたのがロケットランチャー。
・ソ連が世界で初めて開発したのがカチューシャ。T-34と並び祖国戦で活躍。
・BM-13の発射台に刻印されたKの文字から、兵士たちが「カチューシャ」と愛称したのが始まり。歌曲「カチューシャ」は軍事パレードの定番。軍歌の如し。
・カチューシャ以外のロケットランチャーは、気象の名が愛称となっている。



・射程高度が5,000mを越えると対空ミサイルが使われる。
・ソ連/ロシアの武器は開発コード名がそのまま武器のコード名とされるので、第三国にとってわかりづらい。米軍は発見した順にSA(Surface-to-Air)-Xと番号を付けている。NATO軍はGで始まる名称を付けて識別している。
・ソ連/ロシアは対空ミサイルを幾何の形状名で付けていたが、最新のものは「ブーク」(ブナ)というように樹木名が使われている。
・ブークは、今年7月のウクライナ上空でのマレーシア航空機撃墜で一躍有名になった。



・親露派勢力は、ブークを扱える機材・技術を持ち合わせていないとして自身の関与を否定しているが、ブーク本体は目標をいったん捉えると自動追尾装置で撃墜することができるので彼らの反論は信じがたい。まして相手は、大きな機体で同じ高度を一定方向に定速で飛ぶ民間航空機である。また、機体に直接に当たらなくて近くで爆破しただけでも、機体はバラバラになるはずである。



・自宅にはブークを素材にしたカレンダー、ポスター、マグネットがある。マグネットは冷蔵庫に。「水のトラブルはクラシアン」「ウクライナのトラブルはブーク」(笑)



・中距離弾道ミサイルは1987年に米ソ間で全廃条約締結によって廃棄となったので、中距離弾道ミサイルがやたらと博物館に展示されている。
・ロシアは中距離弾道ミサイルの人工衛星打ち上げへの転用を考えた。NECは自社の観測衛星打ち上げに利用できないかロシアと交渉したが値段の面で成立しなかった。
・60年前のスカッドミサイルは各国でそれぞれに改良されて物議をかもしている。



・兵員輸送車は、本来は偵察目的であった装甲車に兵員輸送、さらには戦闘能力をもたせたもの。
・ソ連が歩兵戦闘車を最初に開発したのは冷戦時代。核戦争を想定し、核汚染の中でも戦えることを要件としていた。
・最初に歩兵戦闘車が実戦に投入されたのはアフガン戦争であった。横方向からの攻撃に弱いので装甲板を追加した。その結果、水陸両用であったものが、水に浮かなくなった。
・1979年12月にソ連がアフガンに侵入。当時私は、卒論「パキスタンの安全保障」を書いていた。パキスタンの平和を予測した内容であったが、突然のソ連のアフガン侵攻の結果、卒論の後ろ3分の1ほどを書き直すはめになった。その時に登場したのがこの歩兵戦闘車ということになる。

10.ロシアのユニークな戦車/戦闘車



・KV―2重戦車は、巨砲で重装甲。その大きさと活躍で日本でも人気。『三国志』の長坂橋における張飛に似る。



・核砲弾発射自走砲が開発されたが、ミサイル技術が進んだので、配備されず。



・ロシアの戦争博物館の陳列品には案内板がないことが多い。私がこれを初めて見たときはどんな車両かわからなかった。



・懐かしい水陸両用装甲兵員装甲車だが、北朝鮮ではまだ現役。


11.戦車の見分け方



・戦車マニアとして型式を識別できることは重要。博物館で外見を見比べながら能力を磨いた。



12.戦車の矛(砲弾)と盾(装甲)



・砲弾の種類が変わってくるとともに装甲も変化してきている。まさに、矛と盾の関係。v



・我が家にある模型での比較。
・最近戦車は、複合装甲になったので、形が平ら。各国の主力戦車は、重量が60トン前後であるなか、同等の能力で44トンに抑えた日本の10式戦車はすごい。



・前面部への被弾確率は80~90%とされるので、前面は装甲が厚い。

13.日本の戦車



日本の戦車が軽いのは道路・橋梁の耐荷重の事情による。44トンであると日本の橋の70~80%は耐えられる。北海道中心の90式に対し10式は配備地域を拡大予定。対ロシアから中国もにらんだ防衛体制を考えていると思われる。





・8月末の富士での総合火力演習は戦車を一望できる絶好の機会。
・ロシアから帰国後、私は毎年出かけていた。



・同時着弾の瞬間をバカチョン・カメラで撮ることができたのもすごい!





・富士総合火力演習ではいろんなお土産を売っているので買って帰るが、嫁さんはすこしも喜ばない。

14.私のロシア戦車グッズ




・生産台数別に並べてみた。T-54/T-55はスチール製。T-72はラジコンで弾も撃てる。T-62は真鍮製。



・ロシア土産の定番の3Dクリスタル。普通は左のバレリーナやクレムリン宮殿がモチーフだが、T-90とT-80もある。さすがロシア。



・すべて戦車があしらってある。



・このような盾や皿の類は、飾っているとホコリをかぶる。



・少しずついろんな所で買い集めた。
・お気に入りのT-80のマグカップは図面が描かれてあり、私にとって重宝。



・戦車の入った勲章。少しお金をかけた買い物。半日がかりで値切ったりしたものもある。



・ロシアの尉官は、四階級に分かれる。中尉を手に入れるのに苦労した。帰任直前にようやく見つけて揃えることができた。
・店で「タンク!タンク!」と言って集めてきた。



・武器の種類によって組み札が分けられている。



・1984年発行の切手。すべて第二次世界大戦で活躍した戦車。日本では考えられない、過去の武器を題材にした記念切手。
・消印の有無で二種類集めた。



・マグネットは沢山のものが売られている。





・ロシアでは、沢山の戦車のプラモデルが売られているが、部品が細かく老眼で製作するのはつらいのでやめた。木製や紙製の模型は老眼でも製作が簡単。



・左のポスターは戦車の名称にその名が冠せられた二人が並んだ珍しいもの。虎のポスターは、野獣ドイツ、日本の鬼畜米英と同じ感じか。



・私室の壁に貼っているポスター。ロシアを含め世界の戦車が一覧できる4枚。
・家での仕事にSkypeを使うとこのポスターが相手に映り、気味悪がられる。逆にカメラを向けると戦車の模型が映る。どちらの向きでも同じかもしれない。



・時計はドイツの戦車であるがデザインが気に入っている。短針の位置がずれており、今何時か分からない。
・モスクワの古道具屋で買った日本の「征露紀念」の盃。昔の記念のキは糸偏だった。



・2週間に一度頒布されるミニ戦車シリーズ。置き場に困ると、嫁さんに言われている。



・最もお奨めは『モスクワ攻防戦』。大部であるが非常に面白い。



・戦車マニアとして、仕事の上であまり役立ったことはない。
・昨年シンガポールのIT会社の会長(元准将)が来日した折、‘division and brigade’という言葉を口にした。同席の社の者は誰もその意味がつかめず、その意味を教示して溜飲を下げたことぐらいである。

16.最近の世界での戦車写真



・イスラエルの戦車は通常の戦車と逆に、エンジンが前部、乗員が後部に配置されている。イスラエルは人口が少ないので乗員の生命を重要視している。





・戦車をどこから購入したかを見ることによって、その国の外交関係が考察できる。









・ウクライナと親露派の戦いでは、博物館に展示してある戦車を再利用している。ウクライナ軍は第二次世界大戦のスターリン戦車を博物館より引き出した。これでは親露派に勝てっこない。



・トルコは韓国の戦車K2をライセンス生産するも、韓国でエンジン開発が間に合わずドイツの戦車のエンジンを輸入する羽目に。トルコは日本の10式戦車のエンジンを欲しかったが、トルコに第三国に輸出する意向があり取引不成立。
・北朝鮮の最新型・天馬5号はソ連の50年前のT-62がベース。2年間でこれを900両製造したということから生産力は、北朝鮮の方が上かもしれない。






・エチオピアは北朝鮮からT-55戦車を輸入。国連の北朝鮮武器輸出禁止議決に違反しているが、用途がテロ対策なので黙認されているかたち。
・スーダンは石油利権がからんで中国と親密になる。戦車も中国の99式(ロシアのT-72がベース)を入手。南スーダンは反中国だからロシアからT-72を輸入。今後、両国のT-72系戦車が戦うことがあるかもしれない。



会場からの質問

Q1.戦車のキャタピラーは無防備であるが、ここをやられることはないか?
A1.キャタピラーはたしかに弱い箇所である。最近は、スカートを上にかぶせて防御しているが、横からの砲撃には弱い。

Q2.最近は無人飛行機が兵器となっているが、無人の戦車は考えられていないか?
A2.戦車の乗員は昔は5人、最近は3人が多い。戦車の操縦は結構むずかしい。戦車の製造コストは1両数千万円から10億円といったオーダー。電子機器のコストが多くを占める。












inserted by FC2 system