事務局より

大学を卒業後、海運会社ジャパンラインに就職し、海外勤務も経験された中塚さん。   
8年半の会社勤めの後、京都の実家で飲食業を継がれました。現在はお店で手打ち蕎麦を作るかたわら、
蕎麦の研究にも力を注がれており、昨年は「国際蕎麦シンポジウム」に参加するために中国へ。
その時のことも交えて、蕎麦の魅力、蕎麦を通じて見る世界についてお話しいただきました。

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中塚 博巳さん(9期)

「京都の蕎麦、世界の蕎麦」










はじめに

大学ではスペイン語を専攻。就職試験は3社受けたが、その中でも本当は石川島播磨に行きたかった。ところが、大学紛争で東大、東外大の卒業生が無かったということもあり、通ると思っていなかった海運会社のジャパンラインに採用になった。
入社五年目の時、乗船実習ということで横浜からシアトルまで8000kmを8日間かけて太平洋を渡った。その時のことはヴィアトールにも投稿したが、今も忘れられない楽しい思い出となっている。会社の会議は英語で行われ、北米やニュージーランドに出張し、仕事は楽しかったが、八年半勤めた後、やむを得ず父親の後を継いで実家の食堂の仕事を始めた。
ホワイトカラーの生活から一転し、最初は苦しかったが、周囲に激励してくれる人もいて次第になじんでいった。若い人に言いたいのは、会社というものは狙ったところに入れた人は幸せだが、ひょんなことで入ったところであっても、それもまた面白いということだ。




蕎麦は 世界の食べ物です。

日本の生産量は世界の1%!
日本の消費量は世界の5%!


1.生産地と生産量

・ 国内都道府県別生産量
1位 北海道(←ダントツ)
2位 茨城
3位 長野
4位 福島
5位 栃木
6位 山形
7位 福井
8位 鹿児島(←意外と知られていない)
9位 青森
10位 秋田
11位 新潟
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料1



・ 世界国別生産量
1位 中国(←ダントツ)
2位 ロシア
3位 ウクライナ
4位 フランス
5位 ポーランド
6位 アメリカ
7位 カザフスタン
8位 ブラジル
9位 日本
10位 リトアニア
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料2



日本人は、蕎麦は日本的な食べ物と思い込んでいるところがあるが、ソバの生産量の95%は海外で消費されているというくらい、世界中で食べられている。
もし、皆さんの中に、海外でソバが食べられている例をご存知であれば教えてほしい。



2.貿易

・ 日本の輸入
・ 世界各国の輸出入
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料3  、PDF 資料3-2





日本のソバの輸入量は中国からが圧倒的。
国交回復以降、ソバをどんどん作ってもらって輸入しているおかげで、日本でも手軽にお蕎麦をいただける。
安い蕎麦の十中八九は中国産。




3.起源と伝播(歴史)

・ ソバはタデ科ソバ属
英語でソバはbuckwheatという。
葉、茎が麦に似ていてwheatになったのかもしれないが、本当はタデ。

・ 中国から東へ 朝鮮半島、日本へ 
西へ シルクロードを 欧州へ、 北米へ

ソバの原産地は中国の雲南省。
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料4





昨年の 中国での 国際蕎麦シンポジウムで 京大の大西先生が 雲南省であることを科学的に立証され 発表された。
十字軍遠征によってヨーロッパ方面へも広がっていった。ソバの研究(学会)はカナダやスロベニア、ロシア、日本がリードしている。

日本における蕎麦の初見は、『続日本紀』。ソバを救荒作物として栽培を勧めた詔がある。何故ソバかというと、ソバは植えてから約75日で収穫できるからで、その年のコメの不作がわかってから植えても、その年の収穫に間に合うため。
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料5






唐の詩人、白楽天の詩「村夜」にも蕎麦が出てくる。
「白いソバの花に月光が当たって雪のように見える」という美しい詩。
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料6



アメリカのフォスター作曲「おおスザンナ」にも、buckwheatが出てくる。
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料7





ソバの呼び名は国によってまちまちだが、語源はほとんど同じ意味。
収穫されたソバの実の形と色から、キーワードは「ブナ、とがった、黒」
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料8





4.調理法

・ 日本の そば切り
日本のざるそばのように、切った麺は日本だけの文化。
他に麺といえば、中国・韓国に押し出して作る押し出し麺がある。
京都にスロベニア料理のお店があるが、ソバの実やそば粉を使った西洋料理が食べられる。

・ 世界の食卓
世界には、様々なソバの食べ方がある。
レシピが色々とあるので、皆さん作られてみてはいかがですか。
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料9





5.栄養

・ 抗酸化成分 ルチンの栄養効果
ルチンはポリフェノールの一種でボケ防止になる。
下図参照。拡大して見る場合はここをクリックPDF資料10
苦蕎麦(韃靼蕎麦)は、ルチンが普通のソバの100倍ある。日本では北海道の一部だけで作られている。
比叡山のお坊さんは五穀を絶ち、ソバを食べて修行に励むというが、ソバは非常に栄養がある。それは米とちがって胚が実の真ん中にあるので、栄養のある部分を全部食べることになるから。また、そば湯には水溶性の栄養が含まれているので飲むことをお勧めする。






6.海外行脚

・ スウェーデン(手打ち蕎麦 実演と試食)
お店に来られたスウェーデン夫婦との縁で、スウェーデンのロンネビー市ブルン公園300年記念の日本文化祭に参加、手打ち蕎麦の実演と試食をした。来場者の方にほんの一口ずつ食べてもらったが、今まで食べたことの無い味を珍しく思ってもらえたと思う。
また、この時、オープニングで「能」高砂の舞囃子も披露した。「能」は会社勤めをしていた頃、海外で自分が日本のことを知らないことを痛感して習い始めた。外大を出れば国際人ではなかった。外航海運の仕事を離れ、店の仕事を始めて以来、「海外へ」の夢が「手打ち蕎麦」と「能」で再び実現した。二つの文化のおかげで国際文化交流ができたことは大変うれしく、また自信もついた。
下図参照。拡大して見る場合はここをクリック:PDF資料11




・ 中国 (第10回国際蕎麦シンポジウム)
西安から80kmのところにある西安農林大学で行われた、第10回国際蕎麦シンポジウムに、2007年8月、自営なのでなかなか休めないところを一週間店を閉めて参加した。学会だったが学者20人以外に日本からは9人参加した。海外をふくめ 160人ぐらい。会議は全部英語。農林大学は立派な建物であったが、研究や本にお金が回ってこないので不十分だということだった。
学会で一番印象に残ったのは、ソバも含めて農業を研究している人がたくさんいるということ。今までは西洋に目が向いていたが、中国や日本の農業が大事だなあと思って帰ってきた。

その他

・面白いことに、京都で蕎麦の老舗は「河道屋」「尾張屋」が有名であるが、いずれもおまんや(お菓子屋さん)から始めたということである。

・京都や大阪はかつてはうどん一色であった。自分が会社勤めをしている時分に、京都から東京へ出て蕎麦を習いに行った若い人たちが帰ってきて、今、京都で蕎麦を流行らせている。そういうのも良いと思う。

・大晦日も近いことで、蕎麦はどこで食べればよいかといえば、親方が一人で蕎麦を打っているというところになる。その代わり時間待ち、売り切れ御免を覚悟しなければならない。二八そば(蕎麦粉2:小麦粉8)は、温かいと話し込んでいるうちにブヨブヨになる。本当の蕎麦を味わうのならば、冷たいのを食べるのが良い。こだわりのお店にはエールを送ってほしいのだが、親方はこだわりすぎて離婚率が高い(笑)。そのかわり美味しいものが食べられる。


・ 本の紹介(下図を拡大して見る場合はここをクリック



・ 学生さんへ。英語は絶対に勉強してください。
何も外国へ行かなくてもよく、NHKを聴いたりヒアリングマラソンをしたりで十分に勉強できる。













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