事務局より

シャープご勤務中、1985年から2002年までインドプロジェクトに関わり、インドに2回駐在、2008年に退職されるまで、3年間にわたり事業のためブラジルに7、8回出張されたご経験から、インドとブラジルについて政治・経済・民族・文化・歴史の幅広い視点からお話しいただきました。
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岩田 伸彦さん(9期)


BRICsにおけるインドとブラジル

1.BRICs(Brazil, Russia, India, China)
略語“BRICs”は、2003年のゴールドマンサックスの投資家向けレポートが初出である。

中長期的にはG7を凌駕する巨大な経済圏を形成
世界同時不況について、BRICsは影響を受けないといわれていたが、今年になりダボス会議で顕著な影響を受けていることが明らかになった。直近1年間の株価下落:G7平均38%、BRICs平均56%。
経済発展のスパイラルは、外資導入→輸出・投資増加→生産性・技術水準向上→企業収入アップ→雇用・所得環境改善→GDPアップ。これに則りASEAN, NIEsの国々は、1980年代に外資を呼び込む専門の部署をつくり、輸出入が増え経済レベルがアップした。一方BRICsは1990年代に入って、規制緩和、市場自由化を実施、これとあいまって以降伸びが著しい。スタートは遅かったが、一旦始まると急激に成長している。

・BRICs4カ国のポテンシャリティ
広大な土地 世界の30%
豊富な人口 27億人、世界の43% 労働力・購買力の源泉
豊富な資源 原油・石炭(BRICs4カ国で世界全体の40%保有)・鉄鉱石(BRICs4カ国で世界全体の半分以上保有)・天然ガス・ボーキサイト

・2050年のGDP予測(2007年ゴールドマンサックス社予測)
1.中国(70.7兆ドル)2.アメリカ(38.5) 3.インド(17.6)
4.ブラジル(11.3) 5.メキシコ(9.34) 6.ロシア(8.58)
7.インドネシア(7.01) 8.日本(6.67) 9.英国(5.13)
10.ドイツ(5.02) 11.ナイジェリア(4.64) 12.フランス(4.59)
統計予測によると、GDPは2035年にはBRICsがG7を上回るようだが、国民一人当たりの数字を見れば依然として低く、国民が真に生活の豊かさを実感するのはもっと先の話。

・地域における覇権
核保有国(ロシア、中国、インド)
国連安保理理事国(ロシア、中国。インド、ブラジルは有力候補)

 



2.インド
眠れる象が目覚めるとき
 >> 巨象が目を覚まし脱兎のごとく走り出すことはないが、走りだしたら徐々に加速してゆき止まることはない。

国土面積 世界第7位(日本の8.7倍)
人 口 11億人(05年) ⇒ 2030年には14.5億人、中国を抜いて世界第1位
GDP 1.09兆ドル(07年) ⇒ 2050年には37.6兆ドル、中国・米国についで世界第3位

・19の(準)公用語。日本の方言のレベルではなく、全く違う言葉で、文化も違う。
 国語はヒンディ語(北インド言語)になっているが英語が共用語。

・インドは世界最大の民主主義国 議会制民主主義(中国と違う)で政治的ブレが少ない。政治的に作られた他民族国家。

・1600年東インド会社設立を機にイギリスに植民地化され、1947年独立。

・1991年の経済危機とその後 “いかだの経済”
91年までは混合経済体制で、同年に規制緩和等により資本自由化し立ち直り。

・ハイテク産業の担い手 バンガロール・ハイデラバード・チェンナイ
9.11以降アメリカがビザ発給を制限したので、アメリカでハイテクに関わっていたインド人の多くが国に帰り企業を立ち上げるようになった。
大会社のコールセンターがインドに多くある。アウトソーシング、コンピューターソフトウェア分野がさかん。
英語力があり、特に理系の教育水準が高く、IT以外にもバイオ・医療関係に特出している。

・巨大な消費マーケット
税金納入者は国民の1%、国家歳入の15%は直接税、85%が間接税(先進国と全く逆。日本は直接税が70%)。

・SAARC(南アジア地域協力連合) アンバランスな地域協力
7カ国で構成されているが、インド以外の国は80年代以降、経済状態がどん底で1強6弱状態である。

・今も生きているカースト制度
2000〜3000に細分化されたカーストがある。1950年の憲法で「カーストに基づく差別は禁止された」が、カースト制度そのものは廃止されていない。
カースト 僧→王・武士→商人・職人→農奴・牧畜民→不可触賤民
労働人口の60%が農村に住み、農村ではこの制度がしつこく残っている。

・日本語はインドの地方語(タミル語)のひとつ? インドの人の言語能力は高い。

・カレーは辛いにあらず
辛いというよりスパイシー。牛は神聖と看做され一般的に牛肉は食べない。
哲学的信念に基づくベジタリアンは殺生はダメ、地下のものも食べてはいけない。
北部インドは乾燥しているので小麦が栽培され、パン、チキン、マトンが食される。ナン、タンドリーチキンは北部の食べ物。
南部は高温多湿の気候で、米が栽培され、魚がよく食される。

・映画の都ボリウッド(ボンベイのハリウッド)
各地域の言語の映画。特徴は@ミュージカルAハッピーエンドB派手な衣裳。毎年1000本の新作がでる。ハリウッドは精々年間約400本。





3.ブラジル
躍動する中南米の大国


国土面積 世界第5位(日本の22.6倍)
人 口 1.9億人(05年) ⇒ 2040年には2.3億人
GDP 1.27兆ドル(07年) ⇒ 2050年には11.3兆ドル, 日本を抜き去って世界第4位

・1500年にポルトガルの植民地になり、1822年に独立した。

・ブラジルの人と民族 人種の坩堝、
人種的基本は、@ポルトガル人(純潔主義でなく、雑婚で移動性・適応性がある。)AインディオB黒人。人種差別・偏見はない。

・多人種社会だが一言語・一政府・一宗教 ポルトガル語、カトリック信仰。中国・インドと異なり、言語・文化・宗教による意思疎通問題や国家分裂の危険性は低い。

・世界最大の日本人コミュニティ 善意の含み資産
日本からの移民の最初は1908年、笠戸丸でサントスに上陸。
日本からの移民先 ブラジル130万人、アメリカ・ハワイ100万人、フィリピン15万人、ペルー8万人。
現在ブラジルから日本への出稼ぎ人口は28万人。ブラジルへ郷里送金は20億ドルに達する(正規貿易額25億ドルに匹敵)

・80年代〜90年前半のハイパーインフレの置き土産

・南米大陸の大地からの恵み  鉱物・農産物
南半球にあるため、農産物の収穫時期が北半球と違うため有利。
世界的に環境保護が叫ばれている中、さとうきびから作る、ガソリンに代わるエタノール燃料が脚光を浴びている。

・世界にはばたくブラジル企業 リオドセ・ペトロブラス・エンブラエル(世界4位の航空機会社)

・不思議な人工都市マナウス
アマゾンのジャングルにある。人口150万〜200万人。
1967年経済特区になり、進出企業いん減税措置。72年からシャープは電卓を製造、サンヨー、ソニー、パナソニックも工場を建てる。全体で約400社進出しているが生産売上額では日系企業がメジャーであり、電機・自動車関係が主体。

・ブラジルを核とした共同市場メルコスール
95年発足、ブラジル、アルゼンチン中心の汎南米組織。中心国の景気動向で全体が左右されないように、市場基盤の強化に腐心している。

・サンバだ!カーニバルだ! サッカーだ!
中南米三大リズム:@サンバ(ブラジル)、Aタンゴ(アルゼンチン)、Bルンバ(キューバ)。いずれも20世紀初めにアフリカ音楽とヨーロッパ音楽の融合から誕生。
カーニバルはブラジル版阿波踊り、パレード形式で優劣を争うお祭り。
サッカーが強い理由:@古い歴史、A厚い選手層(プロ契約は60〜70万人)、B選手に内在するサンバのリズム、C黒人とヨーロッパ人の混血からくる身体的優秀さ、D国を挙げての情熱。


4.BRICsの今後の課題 >> 世界経済への負の影響を懸念

・需要の大幅な増加によるエネルギー不足
・環境の悪化 地球温暖化問題に拍車
・金融の混乱

BRICsに続く新興諸国
VISTA:ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチン
Next Eleven:韓国、バングラディッシュ、エジプト、インドネシア、イラン、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、トルコ、ベトナム、メキシコ
IBSAC:インド、ブラジル、南アフリカ、中国
VTICs:べトナム、タイ、インド、中国

以 上











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