事務局より

現在、旅行会社で登山ツアーのガイドをされている若月さん。中高年の人たちに人気がある登山ツアーですが、実はこの業界、色々とあるようです。この7年間で、ガイドとして山に訪れたのは延べ922日。ご自身はこのようなツアーは邪道だ、と思いながらも、今はガイド1000日を達成することを目指しておられます。この業界の実状と、若月さんご自身の山への想いをお話いただきました。
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若月 成夫さん(7期)

私の千日悔峰

紹介

・ 現在勤務している会社のパンフレットの紹介。(これは宣伝ではありません。念のため)

・ 1968年、外大卒業して、34年商社に勤めたが、肩たたきにあい、非自発的退職。今の仕事は2002年3月20日からやっている。この7年間で365回のガイドをしたことになる。年間52回、一週間に1回、延べ922日。一年につき130から150日、山に行っているという計算。


・ わたしの勤め先のツアーは、他社と比べて2〜3割高いので、ツアーに来るお客さんに、この会社のガイドさんは、お給料が良いのではないかと思われているが、そうでもない。ガイドは一日24時間拘束。日当約1万円、時給換算すると、400円/時になるので、とても安い。ワーキングプアーという言葉があるが、自分は自称、ウォーキングプアー。

・ 現在勤めている会社は、正社員が3,4人の女性と社長。その他はアルバイト、パート、契約社員。男性で7年間も続いているのは、自分くらい。普通、1年で辞める。
だから、『森田君、このようなところに就職したら絶対いけません!!』(注)森田君:48期の現役生。フォーラム当日、現役の就職活動の合間に参加した。


 
1. 山登りでもやるかなあ =健康なら誰でもいつからでも歩けます。=

・ 山に行ったら健康になるか?そんなことは保証できない。未経験者には却って危険である。

・ 山登りは自然志向というが、今の自然は相当破壊されているので、果たして自然といえるかどうか。

・ 老後の趣味として、経験のないスポーツを始めると色々あって大変。それに比べて山は歩くだけなので、気軽に始める人が多い。


2. 冒険登山から趣味登山へ =金と時間のある登山者の高齢化へ=


・ 業界では、退職して時間ができた団塊の世代がどっと来てくれるのではないかという期待もあったが、リーマンショック以来、完全にストップした。今更、登山にお金をつぎ込む人も少なく、世の中には、他のスポーツも色々とあるので、特に登山人口が増えるとも思っていない。

・ 学校登山も減った。なぜかというと、指導者がいない。事故を起こしたら裁判になって、たとえボランティアであっても絶対に負ける。こんなリスクは誰も張らない。

・ 昔は、ヒマラヤ初登頂等、登山にも開拓の夢があった。岩登りも、インドアのクライミング競技としては残っているけれども、岩登り、沢登りは減った。今、流行っているアウトドアというのは、4WDの車で川原でバーベキューをすることをさすようだが、あれはアウトドアではないと思う。(我々が目指すのはout of outdoor)

・ 旅行会社が出している山ツアーには、「適当な山岳会がない」「会社や地域の登山部もない」という状況の人たちが参加する。このようなツアーは、旅行会社が今から30年前くらいから出し始めた。自分は、山ツアーが良いとは思わない。あまりにもイージーであり、何回参加してもお客様気分が抜けず、自立や互助の精神も育まれ難い。


3. 用具・装備・機器の進歩 =体力・気力・技術は販売しておりません。=

・ 登山用品を上から下まで揃えると、10万、20万。ツアー客の中には、登山用品店で用途や使用方法もわからないまま、たくさん買わされている人がいる。

・ 昔に比べて、テント、ザックは性能がよくなった。雨具は、ゴアテックスが出てきて、価格でいうと、昔、ワンゲルで使っていた頃のものに比べて60倍くらいになったが、実際の効果は3倍くらい。値段の割にはあまり大したことはない。

・ 靴は昔のもののほうが良い。最近の靴は、接着樹脂が使われているが、製造されて大体3年経てば、使用している、使用していないに関わらず、経年劣化のため靴底が剥がれてくる。ツアーでも針金、ガムテープでお客さんの靴を補強することがよくある。(靴を購入するときは、在庫期間の長いセール品ではなく、最新のもののほうが良い)

・ 地図は昔に比べてよくなった。合成紙でできていて、雨にぬれても大丈夫。2.5万も全国をカバーしている。
・ 体力、気力、技術は販売しておりません。
 



4. ピークハンターのスタンプラリー=金魚の糞の金科玉条=

・ なぜツアーに参加してまで登山するお客さんがいるか。それにはやはり、マスコミの影響というのが大きい。

・ 深田久弥の「日本百名山」は、昭和39年に出版されて以来45年間、いまだにずっともてはやされている。本田勝一などはボロクソに言っているが、自分も、おかしいと思うところがある。百名山のなかには、頂上までリフトやドライブウェイができたり、花が大気汚染の影響か何かで少なくなってしまった山もあり、もう決して名山といえないところがある。自分の独断と偏見では100のうち、30は二部クラスに降格だと思う。

・ 百名山は、ピアノでいえば、バイエルのようなもの。バイエルができたからといってソナタが弾けるというわけではない。百名山の実態からいって、ツアーで百名山に行ったからといって山がわかるというわけではない。

・ しかし、旅行会社にとっては、「日本百名山」のような本があることは、お客さんが集まるのに都合が良い。自分は登山ガイドをする前までに、40年間で、百名山のうち、47の山に登っていた。ところが、ガイドを始めて7年間のうちでそれが、89に増えた。いかに、百名山が人気があるかのがわかる。

・ ツアーに来るおばちゃんは、百名山の中で一番難しいのは「剱岳」と言う。確かに、おばちゃんにとれば難しいかもしれないが、我々は大学生のときに登っているので、そこまで難しいとは思っていない。今年6月に、「剱岳 点の記」という新田次郎原作の映画が公開されるが、どんな出来ばえかぜひ観たい。

・ 岩崎元朗の「新百名山」は、百名山でお金をもうけようという魂胆が丸見えだ。「新百名山」は、彼が山渓とか朝日新聞、その他旅行会社にそそのかされて新聞に発表したものだが、非常にインチキだと思っている。中高年でも登れる事を第一義とし、各県から一山を選んでいるため、山らしい山がない県からも無理やり選ばれているし、一番腹立たしいのは、自分で歩いていない山については、知り合いに電話で聞いただけで書いたらしいということ。

・ 朝日旅行社がやっている「日本秘湯を守る会」の温泉に、ツアーでもお客さんと一緒に行く機会があるが、これもインチキだと思う。ちょっと山の手にある温泉で、秘湯を守る会の看板を掲げているところがあるが、大型バスが何台もとまれるようになっていて、決して秘湯とはいえない。本当の秘湯は、歩いていくしか手が無い所、例えば、剱岳の裏側の阿曽原温泉、剣沢から降りたところの仙人の湯。

・ NHKの「日本の名峰」という番組があるが、全国で山のアンケートをとった結果、第1位は富士山、2位は伯耆大山、3位は石鎚山になっていた。これもでっち上げというか、観光資本や地元の観光協会が、組織ぐるみで団体投票したのではないかと思っている。また、NHK教育番組の「中高年のための登山学」を見て、山を始めたと言う人が多いので、マスコミの影響はすごいと思う。

・ 毎日新聞旅行、産経旅行、朝日旅行、読売旅行など、新聞社系旅行会社の山ツアーの集客力はすごい。他にも近畿ツーリストは規模が大きい。新幹線の「ひかり」を貸し切って、各方面のツアーのお客さんをまとめて乗せることまでしている。
・ 田中澄江の「花の百名山」の影響も大きい。花を探して地面ばかりを見て歩く人もいる。女性は特に植物が好きで、男性は地図と山を見て、歩いた場所をたどってみるのが好きなようだ。


 


5. 登山ツアー =観光資本の新ビジネスモデル=


・ 日本には昔から先達さんと歩く霊場巡りというのがあるが、集団ツアーのルーツだろう。山登りをツアーで行くことに、意外と抵抗が無いが、初対面の人と山に登るなど昔は考えられなかった最大のタブーである。

・ 金で登れぬ山はない。1000万出せば、エベレストに登れる時代。ツアー会社の中には、1kg1000円で荷物を背負ってくれるところもあるくらい。

・ 日本山岳ガイド協会の会長は、自民党京都選出の谷垣禎一。ガイドも自称ベテランで、そんなにキャリアのない人もいて玉石混交。

・ 自分は、今年の9月にツアーガイドを1000日務めることになる予定。千日回峰にちなんで、このフォーラムのタイトルも「千日悔峰」にした。まずは、1000日達成してから、ツアー会社の仕事を辞めることを考えようかなあと思う。



6. O.U.F.S W.V.部関係者 =お疲れ様でした=

・ ツアーに、頼りになる相方がほしいと思っている。

・ この会社のツアーに関わった人達。:堀井(34期)伊福(36期)吉谷(40期)寺岡(43期)近藤(44期)小林(44期)和田(6期・北岳)清水(40期・尾瀬)川口(42期・山小屋)増田(2部生・退部)


7. ワンゲル原理主義 =登山ツアーをぶっ壊せ=

より広くより深くより永く 世の柵から離れ大自然と非日常に向き合う自由は登山ツアーには絶無。

冥土の土産は健康と友情 また歩き出そう裏山から 

・ 登山ツアーは邪道だと思っている。今の仕事は、ただで山に行けるからやっている。皆さんは実力もある方だから、ツアーには参加せず、ご自分で山に行ってください。

・ 仕事を辞めても、山登りは一生続ける。晴登雨読の生活。墓碑には「生涯一岳人」としてもらいたい。


以上


 











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