事務局より

最初は銀行員をされていた森本さんですが、高等学校の教師に転職され、今は香川県大手前高松高等学校の校長を勤められています。35年間の教育現場のことを、私立学校の立場からお話いただきました。
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私立高校の苦悩と挑戦-35年間の教育現場を振り返って-

1. 香川県大手前高松中学・高等学校の概要
配布資料参照
<No.1-a >(中ページを見るにはここをクリック)

<No.1-b>(拡大して見るにはここをクリック)

<No.1-c>(中ページを見るにはここをクリック)

銀行での仕事を辞めて高松で高校の教師(英語)になったときは、授業の予習は一時間程でできるし、休みは多いし、楽な仕事だなあと思ったものだが、35年経つと様変わりした。
今では、学校教育もなかなか厳しい。

2.私学には「建学の精神」あり
「建学の精神」というものは、私立の学校にとって大変重要なもの。公立の学校には存在しない。
教育論は人によって多種多様なので、この「建学の精神」を拠り所とする必要がある。
大手前高松高等学校の建学の精神
「品位ある人格の陶冶と、力の教育とを伝統とし、知性情操の両全を目指し、公共の福祉に貢献できる、指導的社会人を育成せんとする。」




3.私学は収益事業が合法
私学は、収益事業ができる。例えば自動車学校を経営する、施設を賃貸で貸すなど。
それは、法律では、経営基盤を安定化させよという狙いがある。収益には税金がかかるが、それ以外は学校法人なので無税。優遇されていると思う。

4.大学の独立法人化の波 費用対効果意識 ひもなし補助と情報開示
配布資料参照<No.4>
  (拡大して見るにはここをクリック)

国立大学の法人化は一定の効果があったといわれており、公立の高等学校もそういう方向に行こうとしているのではないかといわれている。一般の先生達に原価意識が乏しく、あるお金は使えるものと思っているが、それを阻止しようというのがこの流れ。
大学がこのような考え方をするのは、世界的な動きからやっと気がついたのだと思われる。留学や頭脳が海外に出て行くのを止められなくなったために、というのが突破口だったようで、高校もこの流れと同じ。
公立学校の施設は公共のものでそれぞれの学校のものではない。先生方の給料は自治体の予算によっている。私学と根本的な違いがある。

5.私学助成論争
配布資料参照1<No.5>
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助成金を出すか出さないかは、憲法89条問題といわれており、9条と同じように改憲すべきとよくいわれている。

6.橋下大阪府知事の発言 私学補助金カット/府教育委員会
配布資料参照<No.6>
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私学補助金カットの発言は受け入れがたい。
橋下知事の考えは、公立高校に行きたいという人は全員入れてやったらいい。どうしても公立高校へ行きたくない人だけ私学に行けばよいというもの。私学には補助金を出さない代わりに、独自にやってくれたらいいですよということだが、次の二つの問題がある。
①入試をしたら不合格者が出る。入試をする以上、全員を公立高校で受け入れる体制を整えるのは無理だろう。
②ベビーブーム時に、私立学校は、公立学校が受け入れられなかった子を受け入れてきたという歴史的経緯があるのに、生徒数が減ってくると退けようとするということなので、私学関係者が反発する。

そもそも高等学校教育は国がやらなければいけないのか、という論が私学にはある。民間でできるのであれば、税金を使ってやらなくてもいいのではないか、私学にまかすと、設備費なども含めると却って節約になるという考えもある。

7.税金の二重取り
香川県の場合、私立学校には公立の学校の4分の1しか補助金が出ない。
保護者に、税金は、子供がどこの学校に行ったとしても、同じようにかけられるので、おかしいではないかという考え。




8.バウチャー制度
配布資料参照<No.8>
(拡大、中ページを見るにはここをクリック)
バウチャー制度は、国が子供の数に応じて券を配り、入った学校にその券を持っていき、その数で予算配分が決められる制度。アメリカの一部の州で実際行われている。
日本でも、バウチャー制度が良いという声もある。
私学でも、生徒数が多いところ、少ないところがあり、入学者の数だけで予算が決められると困るところがあり、統一歩調はとれていない。

9.私学の役割と教育の質 
“学校”教育は公営でなければできないかというと、そうでもないだろうという考えが広まってきている。ただ、普通の学校ではなく、障害児などの特別支援教育の学校の場合は、民間では困難ではないか。公私両方あってこそ、全体としての税金の使い方や質の向上がよくなるのではないか。
現在の私立の位置づけは「公立の補完校か、超一流進学校」。だが、これから先、少子化になっていくと、どうなるかはわからない。

10.高校入試全県一区
入試の複数機会、選抜評価方法の多様化
これらの言葉の響きは良いけれども、私学にとっては色々と問題があるので大反対している。

11.学校週5日制(週40時間労働)(ゆとり教育)
配布資料参照<No.11>
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大手前高松高校は、土曜も授業をしている。
私立では半分以上が土曜日もやっているが、公立はやっていないと思う。
「ゆとり教育」と呼んでいるが、「週40時間労働」を教員に適用したのが、公立で土曜日の授業をやめた実務的な理由だと思っている。

12.中高一貫教育 公立 vs 私立 cf)国立大学付属中学・高校
中高一貫教育は効果がある。
県立学校で中高一貫教育をしているところがあるが、公立中学への入試を公に認めることができにくいので、あまりうまくいっていない。
国立大学付属の中学・高校は、進学校として大成功している。ただ、私学の立場から言えば、大学の附属学校が進学に特化するのは問題があるのではないかと思う。教育学の実験的な全人教育をすべきだと思うが、理想と現実には差がある。

13.高校野球の特待生と国内留学 高校ゴルフ部
配布資料参照<No.13>
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私立学校にとっては野球の特待生も非常に大切と考えられている。
香川県の私立学校に大阪からもたくさん来る。
甲子園に行きやすい。授業料、寮費不要。香川の学校なのに香川出身者がいないことはざらにある。
私立学校にとって、勉強をさせながら部活動もさせるということは大変。
硬式野球部だけとっても、学校によって方法も違う。野球部員を一般生徒から独立して、野球に専念させる学校、いろいろな部活に力を注ぐ生徒集団と進学に力を入れる生徒集団に学校組織を完全に分けてしまう大規模学校、野球部員に野球と進学の両方を強引にさせる学校など。

14. 文武両道/全人教育  しつけ指導/道徳教育
最近の子はメンタル面が弱い。道徳心、信仰心、情緒面を教えたり、啓発することが必要であると、公私を問わずどこの先生も、保護者や一般の人達も言うが、学校教育ではなかなか踏み出せないでいる。ひょっとしたら、私立学校はその期待にこたえることができるのではないかという気がしている。進学も大事、体力も必要、相手の立場に立てる教育ができれば、私学の教育が大変信頼を得るだろう、そういうようにしたいという夢がある。
実用英語と受験英語は違う。この二つを融合させるのは、学校の先生は嫌うが、融合できればいいなと思う(English total immersionの方法)。
昼休みにネイティブの先生と話ができるチャットルーム、ネイティブの先生に全校朝礼で毎週5分話してもらうなど、夢のある学校にしたいなあという狙いで試行錯誤している。




15. 余談
配布資料参照<No.15>
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大分教育委員会
どこの県教育委員会も、大変力をもっている。権力が肥大化すぎたのではないかと思う。
教員の鍋蓋構造
ついこの間まで、学校は校長・教頭が管理職で、それ以外の教員は同じ仕事をしており、皆同じ扱いであった。中間管理職の人を作るという動きがある。
学校法人と学校株式会社
学校を株式会社にすると、補助金はつかないが、指導要領を守らなくてもいいということになる。
補助金は財政上影響が大きいので、経営が大変苦しくなることは確かである。

以上












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